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福井地方裁判所敦賀支部 平成6年(ワ)66号 判決 1995年9月18日

主文

一  被告は、原告日本火災海上保険株式会社に対し、九四九万七九四一円及びこれに対する平成六年一二月二五日から支払い済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告は、原告福井鉄道株式会社に対し、八〇万五〇〇〇円及びこれに対する平成六年一二月二五日から支払い済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

三  訴訟費用は被告の負担とする。

四  この判決は仮に執行することができる。

理由

【事実及び理由】

第一  請求

主文同旨

第二  事案の概要

一  本件は、原告らが交通事故の被害者に対し損害賠償金を支払い、共同加害者である被告に対し、その負担部分につき求償金の支払いを求めた事案である。

二  争いのない事実及び前提事実

1 交通事故(以下「本件事故」という。)の発生(車種につき、甲一。その余は、当事者間に争いがない。)

(一) 日時 平成元年一一月二三日午前七時五〇分ころ

(二) 場所 福井県敦賀市松島一三二-五〇先路上

(以下「本件事故現場」という。)

(三) 加害車 被告運転の軽四輪乗用自動車(福井五〇い四〇九四)(以下「被告車」という。)

加害車 永田忠志(以下「永田」という。)運転の大型乗合自動車(福井二二か八一〇)(以下「永田車」という。)

被害車 堀田昌彦(以下「堀田」という。)運転の普通乗用自動車(福井五六も三三二七)

(四) 態様 永田車と被害車の車両相互の正面衝突事故

2 責任原因

(一) 原告福井鉄道株式会社(以下「原告福井鉄道」という。)は、永田の使用者であり、本件事故は永田の原告福井鉄道の業務執行中の事故であった。

(二) 原告福井鉄道と被告は、共同不法行為者として、堀田に対し、連帯してその損害を賠償すべき義務がある(当事者間に争いがない。)。

3 堀田の被った損害

(一) 人損(当事者間に争いがない。)

イ 治療費 五七三万三八〇二円

ロ 看護料 一〇四万七三〇〇円

ハ 慰謝料 三三〇万円

ニ 休業損害 二九五万六三三六円

ホ 後遺障害(第九級) 一一四四万円

イないしホの合計

二四四七万七四三八円

(二) 物損 一五万円

被害車は、本件事故により、前部が大破してボンネットがめくれ、右前輪タイヤがパンクし、フェンダーがへこんだり曲がったりし、後部ガラスが破損し、ハンドルが曲がるなどの損傷を被っており、一五万円を下らない損害を被ったことが認められる。

4 示談

原告福井鉄道は、平成六年五月一二日、堀田との間で、人損については、治療費五七三万三八〇二円と既払金二七二万〇四〇〇円の外、一六〇〇万円を支払うこと、即ち、総額二四四五万四二〇二円を支払うこと、物損については、一五万円を支払うことを約して示談した。

5 保険契約の締結(当事者間に争いがない。)

原告日本火災海上保険株式会社(以下「原告日本火災」という。)は、平成元年二月一日、原告福井鉄道との間において、永田車を被保険車として、同日から一年間を保険期間とする対人賠償保険契約(以下「任意保険契約」という。)を締結した。

6 示談金の支払い

原告日本火災は、堀田に対し、前項の保険契約に基づき、前記第4項の示談金の内金二三四五万四二〇二円を、原告福井鉄道は同内金一一五万円を支払った。

7 自賠責保険からの支払いによる求償金の填補(当事者間に争いがない。)

原告日本火災は、被告の契約する自賠責保険(千代田火災海上保険株式会社(以下「千代田火災」という。))から六九二万円の支払いを受けた。

三  主たる争点

1 永田車と被告車の過失割合

(原告らの主張)

被告は被告車を運転して本件事故現場東側交差点(以下「本件交差点」という。)に進入するに当たり、一時停止をすべきであったのにこれを怠って右交差点に進入したため、折から、永田車を運転して右方道路から右交差点に進入しようとしていた永田は、衝突の危険を感じ被告車との衝突を避けるために急制動しながらハンドルを右に切ったところ、対向車線に出てしまい、対向してきた堀田運転の被害車と正面衝突してしまった。

よって、永田車と被告車の過失割合は、三対七と考えるべきである。

(被告の主張)

被告車には一時停止のある交差点で停止しなかった過失があるが、永田車は、制限速度時速四〇キロメートルを超過する時速五五キロメートルで漫然進行し、しかも、永田は被告車を発見した地点から衝突地点まで三三・三メートルあったにもかかわらず、永田が危険を感じて制動に入ったのは、それから一六・三メートル進んだ地点であり、発見してすぐに制動に入れば十分停止可能であると判断される。

よって、永田車と被告車の過失割合は、四対六と考えるべきである。

2 求償額について

(被告の主張)

(一) 原告福井鉄道が支払った人損分一〇〇万円については原告日本火災が損害と認めなかったので、被告の負担すべき損害とは認められない。

(二) 被告が加入していた自賠責保険(千代田火災)から六九二万円が支払われている外、原告福井鉄道が加入していた自賠責保険(原告日本火災)からも六九二万円が支払われており、堀田の被った損害額(人損分)から自賠責保険金の合計額一三八四万円を控除した残額を過失割合に応じて原告福井鉄道ないし同原告に代位した原告日本火災と被告との間で分担すべきである。

(原告らの主張)

(一) 原告福井鉄道が支払った一一五万円は、原告福井鉄道と被告が共同不法行為者として堀田に負担すべき損害である。

(二) 原告福井鉄道が加入している自賠責保険からの保険金は原告福井鉄道の負担部分について支払われるべきものであるから、堀田の総損害から控除すべきでない。

第三  争点に対する判断

一  争点1について

1 関係証拠によれば、本件事故の態様は次のとおりであると認められ、これを覆すに足りる証拠はない。

(一) 本件事故現場は、交通整理の行われていない本件交差点先路上であり、車道幅員は東西道路が約八・八メートル、これに交差する南北道路が右交差点北側で約六メートル、同南側で約九メートルであり、交差する道路状況の相互の見通しは建物が建っているためによくなく、右交差点中央を囲むように横断歩道が設けられ、東西道路・南北道路のいずれにも最高速度時速四〇キロメートルの速度規制があり、更に、南北道路には右交差点手前に一時停止の規制がある。

(二) 本件事故当時、被告は被告車を運転して南北道路を北進し本件交差点に進入して右折するに当たり、右交差点手前で時速約二〇キロメートルに減速したものの一時停止することなく十分に安全確認もせずに右交差点に進入したため、折から、永田車を運転して東西道路を時速約五五キロメートルの速度で西進し右交差点に進入しようとしていた永田は、進路前方約三三・三メートルの南北道路の南側横断歩道手前の地点に被告車を認めたが、被告車が自己の進路前に進入せず横断歩道上で停止するものと思って約一六・三メートル進んだところ、被告車が停止することなく右交差点内に進入し進路前方をふさぐ状態で停止したので、衝突の危険を感じて咄嗟に被告車との衝突を避けるために急制動をすると同時にハンドルを右に切ったところ、対向車線に進出してしまい、その結果、対向してきた堀田運転の被害車と正面衝突してしまった。

2 以上に認定した本件事故態様に基づいて過失割合を検討するに、被告には、交通整理の行われていない見通しの悪い本件交差点を右折するに際し、一時停止を怠り、かつ、十分に安全確認もせずに右交差点に進入して、直進車である永田車の進行を妨害した大きな落度があり、他方、永田には、大型車である永田車を運転して見通しの悪い本件交差点を直進しようとしたのであるから予めその手前で減速すべきであったのにこれを怠り、かつ、本件事故直前に本件交差点付近に被告車を認めた際にも直ちに減速すべきであったのにこれを怠った軽視しえない落度がある。

以上の諸点に照らして、双方の過失を比較すると、本件事故における永田車と被告車の過失割合は三対七とみるのが相当である。

二  争点2について

1 共同不法行為者間の求償及び原告日本火災の代位

本件事故の被害者である堀田の被った人的物的損害は、永田の使用者である原告福井鉄道と被告との共同不法行為によって発生したものであるから、両者が連帯して堀田に対し損害を賠償する義務があるところ、原告福井鉄道と被告との内部関係においては、永田車と被告車の過失割合(前記認定のとおり三対七の割合)によって負担部分が定まり、負担部分を越える賠償責任を履行した者は他方に対してその越えた部分につき求償することができると解される。

また、前記任意保険契約に基づき、原告福井鉄道に代わり堀田に損害賠償金を支払った原告日本火災は代位により被告に対し、その負担部分について求償することができることも明らかである。

2 原告福井鉄道及び被告が堀田に対して賠償すべき損害額及び両者の分担額

(一) 本件事故における人損は二四四七万七四三八円であり(当事者間に争いがない)、物損は一五万円である(前記第二の二の3(二)に認定)。よって、共同不法行為者である原告福井鉄道と被告は、堀田に対し、少なくとも右損害合計額を連帯して賠償する義務があるところ、右損害賠償額の範囲内で、原告福井鉄道は、堀田との間で、人損につき右損害額の内金二四四五万四二〇二円、物損につき一五万円で示談した(前記第二の二の4に認定)。

よって、原告福井鉄道と被告は堀田に対し右示談金を連帯して支払うべき義務があり、両者の内部関係においては、右示談金を原告福井鉄道と被告が三対七の割合で分担すべきである。

(二) 前記認定(第二の二の6)のとおり、原告日本火災は、堀田に対し、任意保険契約に基づき、示談金の内金二三四五万四二〇二円を、原告福井鉄道は同内金一一五万円(人損分一〇〇万円、物損分一五万円)を支払った。

被告は、原告福井鉄道が直接に堀田に支払った右の人損分一〇〇万円について、原告日本火災が損害として認めないものであるから、右一〇〇万円は被告が負担すべき損害とは認められないと主張する。

しかし、原告福井鉄道が任意保険によらずに自ら示談金内金一一五万円を支払ったからといって、それは原告ら同士の内部関係の問題であって被告の堀田に対する連帯賠償義務がなくなる理由とはならない。よって、被告の右主張は採用できない。

3 自賠責保険の支払いと求償額

(一) 自賠責保険は、自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という。)に基づく損害保険であり、交通事故の加害者が被害者に対して賠償金の支払いをした後に、加害者請求により契約している保険会社から支払った限度で損害の填補(保険金の支払い)を受けるのが原則である(自賠法一五条)。しかし、被害者保護の見地から、被害者が保険会社から直接保険金を受領できる制度もある(自賠法一六条など)が、その場合も、支払いを受けた分だけ被害者の損害がなかったことにはならず、加害者が賠償責任を果たしたことになるのである。このように自賠責保険はあくまでも損害保険であり、共同不法行為者間の場合も、それぞれが損害総額につき不真性連帯責務を負担するとはいえ実質的にみれば被害者に対して過失割合に応じた賠償責任があるのであるから(過失割合を越えた負担は求償できるのであるから)、単独不法行為者の場合と異なるものではなく、その分担額の支払いをした後、各自契約している自賠責保険会社に既払金の填補を請求するのが原則となると解される。

この点について、被告は、共同不法行為の場合、被害者に対する損害総額から共同不法行為者各自の自賠責保険から支払われた保険金合計額をまず損害総額から控除すべきであると主張するが、独自の見解であって採用できない。

(二) これを本件についてみると、次のとおりである。

原告日本火災は、共同不法行為者の原告福井鉄道に代わり被害者である堀田に対し、示談金内金二三四五万四二〇二円を支払ったので、自らの負担部分の三割を越える七割に相当する原告福井鉄道の被告に対する求償金債権一六四一万七九四一円を代位取得した。

計算式 二三四五万四二〇二円×〇・七=一六四一万七九四一円(円未満切り捨て)

共同不法行為者である被告は、原告福井鉄道の代位者である原告日本火災に対して、求償金として右一六四一万七九四一円を支払うべき義務があったところ、自らが加入し、加害者として請求できる自賠責保険(千代田火災)を通して六九二万円を支払った(前記第二の二の7)ので、残額九四九万七九四一円を支払うべき義務がある。

なお、原告福井鉄道の自賠責保険が、契約を締結していない被告の分担する賠償責任を保険するものでないことは言うまでもない。

(三) また、原告福井鉄道は、被害者である堀田に対し、自ら示談金内金一一五万円を支払ったので、自らの負担部分の三割を越える七割に相当する八〇万五〇〇〇円を被告に求償することができることになる。

計算式 一一五万円×〇・七=八〇万五〇〇〇円

三  まとめ

以上によれば、いずれも求償金として、被告に対し、原告日本火災は九四九万七九四一円、原告福井鉄道は八〇万五〇〇〇円及びこれらに対する訴状送達の日の翌日である平成六年一二月二五日から支払い済みに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求めることができる。

よって、原告らの本訴請求は理由がある。

(裁判官 山田和則)

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